- 03/25 ブログ引っ越しました。
- 02/21 イコプ、その人である。
- 01/20 あけましておめでとうございます!
- 12/15 知らフレギャプ問
- 11/28 切り取れ、あの祈る達人クエストを
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「馬鹿げてる・・・正直に言って、とても正気だとは思えない」
サワッチは苛立ちを抑えきれないように、飲みかけの蒸留酒を机に叩き付けた。
静かな室内に、大きな固いグラスの音が響き渡る。
隣の部屋にはポロン、エルザがいる。俺は隣の部屋を気遣うように、声量を抑えて言った。
「しかしだなサワッチ、それしかないだろう。いくつも選択肢があるわけじゃあない。俺は良いアイデアって言ったわけじゃあない。むしろ、ひどい提案だろう。でもな、俺達が今選べる選択肢の中じゃあ、一番ベストだって思うんだよ」
「だけど・・・お前を・・・俺が、ツメで?馬鹿げてる・・・」
ここはとある山脈の麓。
暗い夜が深々と宿を覆いゆく中、俺、サワッチ、エルザ、ポロンの四人は、レアモンスターを探す登山隊を編成していた。今夜はこの古宿に止まり、翌日から本格的に狩りを行う予定となっている。今頃、隣の部屋ではポロンとエルザが眠りに落ちようとしているころだろう。
深いため息をこれ見よがしとつくと、サワッチは俺のほうをじっと見つめて言った。
「魅了されると思うか。俺達が。相手はあのアゴの化け物だぞ?」
「容姿の問題じゃあない。いや、しかしまあお前の趣味もわかんないからな」
ピシッとグラスが音を立てる。
サワッチの黒い怪盗の服から、冷たい何かが吹き出しているようだ。
俺は顔に微笑を貼付けたまま、あくまで柔らかく言った。何かを溶かすように、柔らかく。
「冗談だよ。でもな、それしか無いのは、頭のいいお前ならわかってるだろ?もし俺達が本当に全滅してしまうとしたら、それは魅了の魔術にやられたときだ。俺達のパーティには、僧侶は俺しかいない。俺が魅了されちまったら、おしまいなんだよ」
「だけど・・・魅了をゴールドフィンガーで解除するなんて・・・!!お前、下手したら!」
声をあらげるサワッチに、俺は人差し指を口元にあて、制した。
そっと隣の部屋を見やると、サワッチは、上げかけた腰を椅子に戻し、ふたたびため息をついた。今度は、心の底からにじみ出るように、深いため息を。
「サワッチ。俺達はポロンと、エルザを死なせる訳にはいかない。俺達が誘ったパーティだからな」
「・・・そりゃそうだ。でもな、俺にとっちゃお前も同じだ。いや、お前こそ俺は死なせたくない」
「死なないさ。俺のタフさは、お前が一番知っているだろ?」
「ツッコミじゃ、だめなのか?」
「・・・ツッコミは失敗することがある」
サワッチは、隣の部屋を見つめた。
ポワンとエルザは、来春結婚が決まっている。(注1)恥ずかしげにうつむくエルザの手を握って、「俺達、結婚するんだ」と明かした嬉しそうなポロンの声が、心の残滓のように淡く響いた。
「わかった。でもな、イコプ。これだけは約束してくれ。絶対に、死ぬんじゃないぞ」
「当たり前だ」
俺はニカっと笑うと、サワッチの黒い衣装の背中にバチンと張り手をくらわせた。
次の日。
空は澄み通るように晴れ渡り、回りそこらからはドラゴンの鳴き声がやかましく響いていた。
青い土を蹴るように走る四人の中心に、果たしてその魔物はいた。
アゴデウス。
屈強な長いアゴと、強靭なアゴを武器に道行く旅人を血祭りにあげる恐ろしいモンスター。磨き上げたツメを武器にアゴに切り込むポロンと、その婚約者にせっせとバイキルトを振りかけるエルザ。サワッチもアゴめがけてタイガークローを連発していた。
幸い、二匹のアゴデウスはどちらも魅了の魔術を未だ使ってこない。これなら、いけるか。激しく入り乱れる混戦の中に、サワッチと視線をぶつけた俺は、安堵の笑みを浮かべた。そのときだった。
アゴデウスが苦悶の声と友に、全身から桃色の波動を放ち始めた。そしてその目がゆっくりと色を変える。魅了の魔術ー。その視線の先には、サワッチがいた。サワッチの目線がとろけるように力を失っていく。
しまったー。
サワッチ、お前がやられるなんて。俺は自分の考えの浅さに罪悪感すら感じていた。僧侶一人であるというパーティの構成に気をとられ、他のメンバーが魅了されたときのことまで考えていなかったのだ。
「サワッチ、サワッチ!正気になれ!」
しかしサワッチはゆらゆらと揺れるようにアゴデウスに近づく。そして、にやりと微笑むアゴを、慈しむようにそっとツメの裏側でなでると、焦点の合わない白い目で、振り返った。その瞳は、ポロンを向いていた。
「ば、馬鹿野ー」
「タイガークロー」
一瞬の出来事だった。もう一匹のアゴデウスと戦っていたポロンの背中に、サワッチのタイガークローが叩き込まれた。無防備な状態からの一撃。ポロンは一言の声を出すいとまもなく、静かに膝をつき、倒れた。それはスローモーションのようにゆっくりと見えた。ぐるりと振り返るサワッチ。エルザの声の無い声が、響き渡る。サワッチは再びツメを構えた。
「や、やめろぉおお!!!!」
俺は飛びかかり、サワッチの体を羽交い締めにした。強靭な力で俺を振りほどこうとするサワッチ。しかし、その時だった。まともな意識を失っているはずのサワッチから、確かに、かすかな声が聞こえたのだ。
「・・・てくれ」
俺の体に、電撃が走った。
そうか、サワッチ。そうかー。
突然、俺の脳裏にサワッチと初めて会った日の事が浮かんだ。
あれはとある池の前だった。初対面で出会ったあいつは、ピンク色のひどい格好をしていたなー。はは、それは今でも、かわらないか。
俺が提案したことを、俺がやれなくてどうする。
俺は泣きながら、呪文を唱え始めた。サワッチは、その時には不思議なほど抵抗しなくなっていた。まるで、俺の詠唱が子守唄でもあるかのように。静かに、静かに。
動かなくなったサワッチを、そっと床に横たえると。
俺はその垂れた目をそっと閉じてやった。
エルザはやっと状況を理解したように、えぐっえぐっ、と泣き始めていた。
アゴデウスも感極まったかのように、泣いていた。
俺は静かに立ち上がると、ポロンに蘇生の魔法をかける。
甦ったポロンは横たわるサワッチを見つめ、呆然としていた。
「・・・サワッチぃ」
「エルザ、泣くなよ。俺が、いるから」
「うん・・・」
「誰が悪いわけでもない。悲しい、本当にとても悲しいけれど」
「アゴゴゥー;;アゴゴゥー;;」
むせび泣くアゴデウスの背中をポンとたたくポロン。
アゴデウスは名残惜しそうに山の奥へと戻っていった。
そして俺達は死者の亡がらに祈りを捧げると、町へ戻った。
ありがとう、ありがとうサワッチ。お前のことは忘れない。
そう胸中に呟くと、空を見上げた。
夕暮れの雲の隙間から、サワッチの笑顔が覗いているような気がした。
ー完ー
ーーーーーーーーーーーーーーー
注1 ポロンさんとエルザさんは別に婚約者ではありません 話盛りました
クリック!フォーミー!
サワッチは苛立ちを抑えきれないように、飲みかけの蒸留酒を机に叩き付けた。
静かな室内に、大きな固いグラスの音が響き渡る。
隣の部屋にはポロン、エルザがいる。俺は隣の部屋を気遣うように、声量を抑えて言った。
「しかしだなサワッチ、それしかないだろう。いくつも選択肢があるわけじゃあない。俺は良いアイデアって言ったわけじゃあない。むしろ、ひどい提案だろう。でもな、俺達が今選べる選択肢の中じゃあ、一番ベストだって思うんだよ」
「だけど・・・お前を・・・俺が、ツメで?馬鹿げてる・・・」
ここはとある山脈の麓。
暗い夜が深々と宿を覆いゆく中、俺、サワッチ、エルザ、ポロンの四人は、レアモンスターを探す登山隊を編成していた。今夜はこの古宿に止まり、翌日から本格的に狩りを行う予定となっている。今頃、隣の部屋ではポロンとエルザが眠りに落ちようとしているころだろう。
深いため息をこれ見よがしとつくと、サワッチは俺のほうをじっと見つめて言った。
「魅了されると思うか。俺達が。相手はあのアゴの化け物だぞ?」
「容姿の問題じゃあない。いや、しかしまあお前の趣味もわかんないからな」
ピシッとグラスが音を立てる。
サワッチの黒い怪盗の服から、冷たい何かが吹き出しているようだ。
俺は顔に微笑を貼付けたまま、あくまで柔らかく言った。何かを溶かすように、柔らかく。
「冗談だよ。でもな、それしか無いのは、頭のいいお前ならわかってるだろ?もし俺達が本当に全滅してしまうとしたら、それは魅了の魔術にやられたときだ。俺達のパーティには、僧侶は俺しかいない。俺が魅了されちまったら、おしまいなんだよ」
「だけど・・・魅了をゴールドフィンガーで解除するなんて・・・!!お前、下手したら!」
声をあらげるサワッチに、俺は人差し指を口元にあて、制した。
そっと隣の部屋を見やると、サワッチは、上げかけた腰を椅子に戻し、ふたたびため息をついた。今度は、心の底からにじみ出るように、深いため息を。
「サワッチ。俺達はポロンと、エルザを死なせる訳にはいかない。俺達が誘ったパーティだからな」
「・・・そりゃそうだ。でもな、俺にとっちゃお前も同じだ。いや、お前こそ俺は死なせたくない」
「死なないさ。俺のタフさは、お前が一番知っているだろ?」
「ツッコミじゃ、だめなのか?」
「・・・ツッコミは失敗することがある」
サワッチは、隣の部屋を見つめた。
ポワンとエルザは、来春結婚が決まっている。(注1)恥ずかしげにうつむくエルザの手を握って、「俺達、結婚するんだ」と明かした嬉しそうなポロンの声が、心の残滓のように淡く響いた。
「わかった。でもな、イコプ。これだけは約束してくれ。絶対に、死ぬんじゃないぞ」
「当たり前だ」
俺はニカっと笑うと、サワッチの黒い衣装の背中にバチンと張り手をくらわせた。
次の日。
空は澄み通るように晴れ渡り、回りそこらからはドラゴンの鳴き声がやかましく響いていた。
青い土を蹴るように走る四人の中心に、果たしてその魔物はいた。
アゴデウス。
屈強な長いアゴと、強靭なアゴを武器に道行く旅人を血祭りにあげる恐ろしいモンスター。磨き上げたツメを武器にアゴに切り込むポロンと、その婚約者にせっせとバイキルトを振りかけるエルザ。サワッチもアゴめがけてタイガークローを連発していた。
幸い、二匹のアゴデウスはどちらも魅了の魔術を未だ使ってこない。これなら、いけるか。激しく入り乱れる混戦の中に、サワッチと視線をぶつけた俺は、安堵の笑みを浮かべた。そのときだった。
アゴデウスが苦悶の声と友に、全身から桃色の波動を放ち始めた。そしてその目がゆっくりと色を変える。魅了の魔術ー。その視線の先には、サワッチがいた。サワッチの目線がとろけるように力を失っていく。
しまったー。
サワッチ、お前がやられるなんて。俺は自分の考えの浅さに罪悪感すら感じていた。僧侶一人であるというパーティの構成に気をとられ、他のメンバーが魅了されたときのことまで考えていなかったのだ。
「サワッチ、サワッチ!正気になれ!」
しかしサワッチはゆらゆらと揺れるようにアゴデウスに近づく。そして、にやりと微笑むアゴを、慈しむようにそっとツメの裏側でなでると、焦点の合わない白い目で、振り返った。その瞳は、ポロンを向いていた。
「ば、馬鹿野ー」
「タイガークロー」
一瞬の出来事だった。もう一匹のアゴデウスと戦っていたポロンの背中に、サワッチのタイガークローが叩き込まれた。無防備な状態からの一撃。ポロンは一言の声を出すいとまもなく、静かに膝をつき、倒れた。それはスローモーションのようにゆっくりと見えた。ぐるりと振り返るサワッチ。エルザの声の無い声が、響き渡る。サワッチは再びツメを構えた。
「や、やめろぉおお!!!!」
俺は飛びかかり、サワッチの体を羽交い締めにした。強靭な力で俺を振りほどこうとするサワッチ。しかし、その時だった。まともな意識を失っているはずのサワッチから、確かに、かすかな声が聞こえたのだ。
「・・・てくれ」
俺の体に、電撃が走った。
そうか、サワッチ。そうかー。
突然、俺の脳裏にサワッチと初めて会った日の事が浮かんだ。
あれはとある池の前だった。初対面で出会ったあいつは、ピンク色のひどい格好をしていたなー。はは、それは今でも、かわらないか。
俺が提案したことを、俺がやれなくてどうする。
俺は泣きながら、呪文を唱え始めた。サワッチは、その時には不思議なほど抵抗しなくなっていた。まるで、俺の詠唱が子守唄でもあるかのように。静かに、静かに。
動かなくなったサワッチを、そっと床に横たえると。
俺はその垂れた目をそっと閉じてやった。
エルザはやっと状況を理解したように、えぐっえぐっ、と泣き始めていた。
アゴデウスも感極まったかのように、泣いていた。
俺は静かに立ち上がると、ポロンに蘇生の魔法をかける。
甦ったポロンは横たわるサワッチを見つめ、呆然としていた。
「・・・サワッチぃ」
「エルザ、泣くなよ。俺が、いるから」
「うん・・・」
「誰が悪いわけでもない。悲しい、本当にとても悲しいけれど」
「アゴゴゥー;;アゴゴゥー;;」
むせび泣くアゴデウスの背中をポンとたたくポロン。
アゴデウスは名残惜しそうに山の奥へと戻っていった。
そして俺達は死者の亡がらに祈りを捧げると、町へ戻った。
ありがとう、ありがとうサワッチ。お前のことは忘れない。
そう胸中に呟くと、空を見上げた。
夕暮れの雲の隙間から、サワッチの笑顔が覗いているような気がした。
ー完ー
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注1 ポロンさんとエルザさんは別に婚約者ではありません 話盛りました
クリック!フォーミー!
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COMMENT
初めまして!
いつも楽しく読ませてもらってます。
私も相方とアゴによく行きますけど、ツッコミ以外の攻撃特技で、バトルロワイヤルやりますw
効率最底だけど、刺激MAXですw
応援してます!
FF14に負けないで、頑張ってください(≧∇≦)
私も相方とアゴによく行きますけど、ツッコミ以外の攻撃特技で、バトルロワイヤルやりますw
効率最底だけど、刺激MAXですw
応援してます!
FF14に負けないで、頑張ってください(≧∇≦)
無題
凄く面白かったです♪
イコプさんの小説、これからも楽しみにお待ちしております♪
でも…
「…せやけど工藤、何やおかしないか?
いくらなんでも魅了とくのにザキとかありえへん。
このポポリア山殺人事件、まだ裏がありそうやで…」
イコプさんの小説、これからも楽しみにお待ちしております♪
でも…
「…せやけど工藤、何やおかしないか?
いくらなんでも魅了とくのにザキとかありえへん。
このポポリア山殺人事件、まだ裏がありそうやで…」