如来の出世には甚だ値ひがたし
無量億劫の時に一遇なり
諸の難処を離れて衆会に適け
ただ仏世尊のみ能く時に応じたまふ
(華厳経)
暮れ泥む夕暮れ。
太陽が名残惜しそうに海面上に揺蕩っていた。
東を向けば、静かな畏怖をもって世界を覆い隠すように、夜が顔をもたげる。
昼の喧騒は湿り気を帯びた夜のそれに変わりつつあるラッカランの駅前で、私は薄れゆく陽光を頼りに一通の手紙を手に取った。紅色に滲む手紙には、精緻な筆で、シンプルにこう記されている。
「 25サーバー、ガートラント城、炎の玉座の前で待つ。 レオ 」
女性らしい細い達筆に、しかし一切の迷いは感じられなかった。叩き付けるような黒い文字。強い意志が薄い紙の合間に圧縮され、じんわりと刻み込まれているようだ。
私は手紙を懐にしまうと、大きく空気を肺に吸い込んだ。
否応無しに高まる鼓動を抑えるように、胸に手を当て、目を閉じる。
「約束の時だ」
私はゆっくりと目をあけると、振り返り、静かに蒸気を上げる汽車を見上げた。
一瞬とも言える幾ばくの後、ガートラント城についた。
思いがよぎる。なんで誘っておいて石を作ってくれないんだろう?
そんな邪念が脳裏を掠めるが、ボクシングチャンピオンクラスのヘッドバンキングでその思いを避ける。むろん心象風景だ。私は思考をなるたけ止めるように、指定の場所に急いだ。
果たして、彼女はいた。
威風堂々と、そこに立っていた。
肩書きを調整することで成り立つ、斜の構え。
隙を一切と排除したその構えは、古代ガートラントの王族にのみ継承を許された「天後の構え」と言われているとはまさに今私が作った話である。
しかししかし実に堂々たる出で立ちだ。惜しむらくはその右側のあますことなくその肌を露出させた全裸のモヒカン(無関係の人)の存在感があまりにも強く、となりに立つレオが何だかアホの子みたいに見えるというというかむしろレオずっとその格好でそこで待ってたのねごめんね待たせてごめんねちょっと迷宮とか行っててごめんねと謝っておいた心の中で全力で謝っておいた。
歩み寄ると、レオはその燃える双眸を少しだけ緩めると、言った。
「行こう、私の家の前でこーてん君を待とう」
私は瞬間「あれっなんでこの人こんなとこに呼び出しておいていきなり家に戻るのかなもしかして凄いバカなのかな」と邪な考えが脳裏をよぎったが、もちろんそれは口に出さないでおく。当然これはゲームなので画面の前でいきなりしゃべりだしたらかなりの末期の状態ですからねそれは口に出さないでキーボードで上記の旨を伝えることにしました。するとレオは「ツメスキルを全部短剣にふり直そうかと思ったけどぎりぎりで我慢した」ともうちょっと常人には理解できない発言だったので諦めて「とりあえずこーてん君くるまでオシャレしようメギストリス行こう」と伝える。
「なんでメギストリスなの?」
「オシャレの町だよね」
「確かに」
私は気づくと、町の北東部に位置するメギストリスの繁華街に居た。
華やかな極彩色に身を包む若い女性達の群れ。そんな雑踏をかきわけるように進む私とレオ。
華美に酔いしれる溶けた視線に、鋭く重い我々の視線が絡み合うと、彼らは少し怯えたように目をそらした。
私たちは散髪屋の前に立った。今から始まる、絶対に負けられない戦い。我々の中での聖戦。その戦いにあいふさわしい礼節を、体をもって体現しなくてはなるまい。おねーちゃん!カタログみせて!
試行の末、果たして、完成した。
一人の、僧侶が、アストルティアに、
本当の意味で生まれ落ちた瞬間だった。
ゴータマ・イコプ・シッダールタの誕生である。
黒くつややかな髪は、しかし何にも頓着を示すことなく、無造作に束ねられる。
それはまさに仏の言う「執着に捕われない心」を体現しているよう。
遠くを見つめるその視線の先には、完全に涅槃があるのであった。
これが仏になるということか。圧倒的な使命感がコンコンと心に湧き出てくる。
仏の意志を伝えよう。
帰命せよ。ただ、我の言葉に従い、帰命せよ・・・とチームに伝える。
仏の突然の出然に動揺を隠せないチーム。
無理も無いことだ。俗世と涅槃は余りにもかけ離れているから。
しかしこの一遇をいつかは最上のことと感じてくれる日が来るに違いなかろうとそっとしておくことにする。
さて、レオはどうなったかと気にしてみる。
「イコプみてこの目」
「見た」
「良くない?気に入った」
「はあ」
まったく理解できなかったので早くこーてん君きてくれ早く早くこーてん君きてくれと念を唱えていた
きてくれた。
そして役者が集った。
僧侶二人、そして武闘家二人の構成だ。
そう、我々はこれから、悪猿、バズズに戦いを挑むのだ。
レオとこーてん君は、この日のために、様々な準備をしてくれた。
スキルを揃えたり、HPパッシブをとりにいったり、装備を集めたり。
凄く大変だっただろうと思う。
絶対に、負けられない。
最終確認をした。
イオグランテは避ける、バギムーチョは離れる、などプランからの最終チェックが入る。
気づけば、朝を迎えていた。
あの日の出を、勝利に変えよう。
準備はいいか
ととのってござる
たかがゲーム、されどゲーム。
しかし手に汗を握るほどの緊張感は、現実の世界でもそうそう無い。
私はぐっと汗を拭うと、コントローラーを握りしめる。
プランが言った。
「レオどのが当たってくれ」
でも、慣れてる人が、と戸惑うレオに、「二人が主役だから」とでも言わんばかりで微笑むプラン。
私は小さく親指を立て、こーてん君はうなずき、唇を噛み締めると、杖を構える。
そんな3人を交互に見つめると、レオはキッと前を向いた。
この日のために用意したツメを構え、小さく強く息を吐くと、バズズ、その懐に飛び込んでいったのだった。
この日の為に、なけなしのお金を叩いて買ったツメ。
力を込めて振り下ろしたそれが、薄暗い部屋の中に、キラリと照り返し光った。
しかし、濃い紫色の体毛は見た目以上に太く固く、磨き抜かれたはずの刃は、ゴムのような感触に跳ね返された。きつくきつく締めた止め金具が前腕にめり込み、しびれが走る。
「プランさんっ、こいつ・・・」
「馬鹿やろう!よそ見すんな!」
悪猿の想像以上の防御力に怯むレオ。一瞬の弱気から、プランを振り返ったその背後から、風と熱風の悪霊は無造作に豪腕をふるった。背中全体にひろがる灼熱感ーそして次に来るはずの痛みという感覚が脊髄を駆け上がる前に、レオは意識を失い、ゆっくりと倒れた。その後ろには、焦点の定まらない深い目で、こちらを見つめる悪猿が、熱い息を吐き出していた。
「ちっ」
プランはその体躯を震わせると、倒れるレオをかばうように、バズズの胸元に飛び込んだ。そのままショルダータックルのように体をぶつける。深い体毛に体を半ば埋め、その全体重をバズズに押し付けた。低い姿勢をとり、両足に全身全霊の力を込める。首もとにバズズの灼熱の呼吸が降り注ぎ、ちりちりと焼けるようだった。バズズが移動を始めようと押し返してくる。
だが、一歩も、これ以上進ませない。後ろにいる、二人の僧侶のもとには。
「イコプっ、こーてん・・・!」
その時、こーてんは完全に固まっていた。頭の中で何度もシュミレートしていた開幕。戦闘が始まる前に思い描いていた、スキルの構成。祈りから続き、ズッシード、スクルト、フバーハ、による強化。何度もイメージしてきたはずだった。
しかし、開幕直後のツインクローで、死者が出るなんて予想だにしていなかった。まさか、そんな一撃で。
「開幕が、一番大事。開幕が乗り切れれば、大丈夫だから」
事前にイコプさんが言っていた言葉が思い出された。その、大事な開幕で。この場合、俺はズッシードをすればいいのか?それとも、ザオ係の俺が蘇生に走るのか?でも、プランさんまで死んでしまったら、もう壊滅じゃー。頭の中に、数多の選択肢と、寸後に待ち構えている最悪の場面が一瞬にして爆発し、こーてんは固まった。手が震えて、動かない。準備してきたのに。今日のために、一生懸命、みんなで。狭まる視界の中で、獰猛な鼻息を荒げる、バズズと目が合った。殺意を混めた目線が、一直線に自分を貫いていた。駄目だ、殺される。勝てないー
「ザオいくよ」
ガラスを打ち破るように、声が聞こえた。
そしてスタスタと青い衣を翻し、イコプは走っていった。腐臭荒げる悪猿のもとに、さも造作も無いように近づいていく。それはまるで近所に買い物にでも行くかのように。
そんな無防備に・・・いや・・・でも・・・?
こーてんは改めてバズズを見た。殺気迸るその視線は、先ほどから明らかにこちらを見ている。目があう。バズズはつまりー俺を狙っている。落ち着いて見ると、バズズはじりじりと此方に進んできていた。そうか、今バズズのターゲットは俺なんだ、しかし、咆哮を上げるプランがそれを妨害するように、押し返してくれている。イコプさんがあんなにも無造作に進んだのも、それだから。イコプさんは胸の前で指印を切ると、レオさんの周りに暖かい青い光を呼び寄せていた。そしてこっちをちらりと見る。その目は、何かを楽しんでいるかのように、優しかった。
そうだ、大丈夫だ。
俺には頼れる仲間がいる。そして今、俺がやることは。
こーてんは杖を構えた。手はもう震えていなかった。
ズッシードが発動し、体に重量を得たプランは更に体を深く落とすと、バズズをじわじわと押し戻しはじめた。イコプはレオの蘇生を終えると、速やかに後方に下がる。こーてんは既にスクルトを終え、フバーハを唱え始めていた。いくで、こーてんさん。頼れる僧侶を横目に、イコプは自身も聖なる祈りを唱え始め、バズズが次に狙うターゲットへの攻撃に備えた。蘇生されたばかりのレオは、しかし1つの動揺も見せることなく、すぐさまプランの横につく。二人の冥獣のツメがバズズの深い毛の合間から、少しずつその肉に傷をつけ始めた。
そこから先は持久戦だった。
悪霊たる魔力と、圧倒的な攻撃力が、壁のように4人を押し続けた。
しかし、崩れ落ちそうになるたびに、奇跡のような反撃が4人を後押しした。バズズの高速の連続攻撃の合間に入りこむ回復魔法。全滅間際に発動する武闘家の一喝。しかし、奇跡はあくまで努力の元に降り注ぐ。耐性を揃えたことによる、ザラキーマのボーナスターン。集中を切らすことなく避け続けるバギムーチョ、イオグランデ。その1つ1つ、そしてその全てが、4人を支えていた。
「プランさんがタゲって連発してた」
ボスに入る部屋の前、半分冗談めかすように笑っていたレオは、しかし今誰よりもその言葉を意識していた。倒れ、そして起き上がり、ツメをふるう。極度の集中の中、裏腹にレオは思い出していた。こーてん君に初めて会ったときのことを。
「初めてのコインボスだから、みんなでやってみたいんだ」
「友達と一緒にやるドラクエって、楽しいね」
子供のように微笑む彼。私より何倍もでかい体をして、子供っぽいこと言うんだからなんて、あのときは思ったけれど。でも不思議と居心地がよかったんだ。そんなこーてん君と、今戦ってる。こんな強いボスを倒すために、一緒に。
倒れた私の元に、とても真剣な顔で、息急き走ってきて蘇生してくれるこーてん君と目が合うと、私は少し笑ってしまった。そして再び拳に力を込めた。
こーてん君に勝利を。そして私自身にも、勝利を。
ドラクエを始めて、初めてこんなに頑張って準備したボス戦だもの。この私が頑張ったんだ、その努力は報われなきゃ、ね。
強く床を蹴ると、今や赤い文字となったバズズに、私はありったけのタイガークローをぶち込んでやった。
そして、バズズは、倒れた。
苦悶とともに、そして解き放たれる喜びと共に。
轟音と、圧倒的な量の光の奔流が、薄暗い部屋を照らした後、
4人は静まりかえった部屋の中に、立ちすくんでいた。
「うおおおおおおおお!!」
叫ぶプラン。やったね、と微笑むレオ、そしてイコプ。
こーてんは信じられない、といった面持ちで、まだ杖を握りしめていた。
プランはこーてんの肩をドンと叩くと、部屋の奥にいつのまにか鎮座している、赤い宝箱を見やった。
「あけてくれ、こーてん君」
いいの?という表情を浮かべるこーてんに、3人はうんうんと頷いた。
ゆっくりと宝箱に近づくこーてん。
宝箱が、開いた。
こーてん君は動かなかった。
そして何も言わなかった。
ただ宝箱を開いたままの姿勢で、固まっていた。
せ、聖水がよほどショックだったかな。
心配になって宝箱をあける、残りの3人。
結果じゃない。
指輪よりも、大切な思い出を手に入れたから。
でもやっぱり、嬉しかった。
こーてん君とレオの指に、キラリと嬉しそうに光るソーサリーリングが、思い出を形に残してくれたみたいだった。
おまけ
その後連戦でアトラスも行きましょうとなりまして
次の戦いに備えて身支度する二人
イコプ「パフパフッwおけしょうww」
プラン「ちゃぷちゃぷwwちゃぷちゃぷww」
レオ「はよ」
イコプ「ぶーふぁっふぁ仏陀ww仏陀っっw」
プラン「じーざすwwwきりすとwww」
レオ「はよ」
そしたらまさかのトルネコですよ。
こーてん君のリアル僧侶ラック半端ないマジで半端ない。
レオ「デブはよ」
プラン「えっデブって俺のこと?怒った」
プランがふてくされたので記念写真には入りませんでした。
プラン「やっぱいれてよぉ」
寂しかったようです
そしてアトラスも撃破。
最後に、みんなで海に向かってはしりました。
うえーい!!
水着水着ーうえーい!!
わっしょーい!入れねー!!!まあいいよねー!おつかれさーん!!!!
おまけ2
思い出がMP1に変わった瞬間
無量億劫の時に一遇なり
諸の難処を離れて衆会に適け
ただ仏世尊のみ能く時に応じたまふ
(華厳経)
暮れ泥む夕暮れ。
太陽が名残惜しそうに海面上に揺蕩っていた。
東を向けば、静かな畏怖をもって世界を覆い隠すように、夜が顔をもたげる。
昼の喧騒は湿り気を帯びた夜のそれに変わりつつあるラッカランの駅前で、私は薄れゆく陽光を頼りに一通の手紙を手に取った。紅色に滲む手紙には、精緻な筆で、シンプルにこう記されている。
「 25サーバー、ガートラント城、炎の玉座の前で待つ。 レオ 」
女性らしい細い達筆に、しかし一切の迷いは感じられなかった。叩き付けるような黒い文字。強い意志が薄い紙の合間に圧縮され、じんわりと刻み込まれているようだ。
私は手紙を懐にしまうと、大きく空気を肺に吸い込んだ。
否応無しに高まる鼓動を抑えるように、胸に手を当て、目を閉じる。
「約束の時だ」
私はゆっくりと目をあけると、振り返り、静かに蒸気を上げる汽車を見上げた。
一瞬とも言える幾ばくの後、ガートラント城についた。
思いがよぎる。なんで誘っておいて石を作ってくれないんだろう?
そんな邪念が脳裏を掠めるが、ボクシングチャンピオンクラスのヘッドバンキングでその思いを避ける。むろん心象風景だ。私は思考をなるたけ止めるように、指定の場所に急いだ。
果たして、彼女はいた。
威風堂々と、そこに立っていた。
肩書きを調整することで成り立つ、斜の構え。
隙を一切と排除したその構えは、古代ガートラントの王族にのみ継承を許された「天後の構え」と言われているとはまさに今私が作った話である。
しかししかし実に堂々たる出で立ちだ。惜しむらくはその右側のあますことなくその肌を露出させた全裸のモヒカン(無関係の人)の存在感があまりにも強く、となりに立つレオが何だかアホの子みたいに見えるというというかむしろレオずっとその格好でそこで待ってたのねごめんね待たせてごめんねちょっと迷宮とか行っててごめんねと謝っておいた心の中で全力で謝っておいた。
歩み寄ると、レオはその燃える双眸を少しだけ緩めると、言った。
「行こう、私の家の前でこーてん君を待とう」
私は瞬間「あれっなんでこの人こんなとこに呼び出しておいていきなり家に戻るのかなもしかして凄いバカなのかな」と邪な考えが脳裏をよぎったが、もちろんそれは口に出さないでおく。当然これはゲームなので画面の前でいきなりしゃべりだしたらかなりの末期の状態ですからねそれは口に出さないでキーボードで上記の旨を伝えることにしました。するとレオは「ツメスキルを全部短剣にふり直そうかと思ったけどぎりぎりで我慢した」ともうちょっと常人には理解できない発言だったので諦めて「とりあえずこーてん君くるまでオシャレしようメギストリス行こう」と伝える。
「なんでメギストリスなの?」
「オシャレの町だよね」
「確かに」
私は気づくと、町の北東部に位置するメギストリスの繁華街に居た。
華やかな極彩色に身を包む若い女性達の群れ。そんな雑踏をかきわけるように進む私とレオ。
華美に酔いしれる溶けた視線に、鋭く重い我々の視線が絡み合うと、彼らは少し怯えたように目をそらした。
私たちは散髪屋の前に立った。今から始まる、絶対に負けられない戦い。我々の中での聖戦。その戦いにあいふさわしい礼節を、体をもって体現しなくてはなるまい。おねーちゃん!カタログみせて!
試行の末、果たして、完成した。
一人の、僧侶が、アストルティアに、
本当の意味で生まれ落ちた瞬間だった。
ゴータマ・イコプ・シッダールタの誕生である。
黒くつややかな髪は、しかし何にも頓着を示すことなく、無造作に束ねられる。
それはまさに仏の言う「執着に捕われない心」を体現しているよう。
遠くを見つめるその視線の先には、完全に涅槃があるのであった。
これが仏になるということか。圧倒的な使命感がコンコンと心に湧き出てくる。
仏の意志を伝えよう。
帰命せよ。ただ、我の言葉に従い、帰命せよ・・・とチームに伝える。
仏の突然の出然に動揺を隠せないチーム。
無理も無いことだ。俗世と涅槃は余りにもかけ離れているから。
しかしこの一遇をいつかは最上のことと感じてくれる日が来るに違いなかろうとそっとしておくことにする。
さて、レオはどうなったかと気にしてみる。
「イコプみてこの目」
「見た」
「良くない?気に入った」
「はあ」
まったく理解できなかったので早くこーてん君きてくれ早く早くこーてん君きてくれと念を唱えていた
きてくれた。
そして役者が集った。
僧侶二人、そして武闘家二人の構成だ。
そう、我々はこれから、悪猿、バズズに戦いを挑むのだ。
レオとこーてん君は、この日のために、様々な準備をしてくれた。
スキルを揃えたり、HPパッシブをとりにいったり、装備を集めたり。
凄く大変だっただろうと思う。
絶対に、負けられない。
最終確認をした。
イオグランテは避ける、バギムーチョは離れる、などプランからの最終チェックが入る。
気づけば、朝を迎えていた。
あの日の出を、勝利に変えよう。
準備はいいか
ととのってござる
たかがゲーム、されどゲーム。
しかし手に汗を握るほどの緊張感は、現実の世界でもそうそう無い。
私はぐっと汗を拭うと、コントローラーを握りしめる。
プランが言った。
「レオどのが当たってくれ」
でも、慣れてる人が、と戸惑うレオに、「二人が主役だから」とでも言わんばかりで微笑むプラン。
私は小さく親指を立て、こーてん君はうなずき、唇を噛み締めると、杖を構える。
そんな3人を交互に見つめると、レオはキッと前を向いた。
この日のために用意したツメを構え、小さく強く息を吐くと、バズズ、その懐に飛び込んでいったのだった。
この日の為に、なけなしのお金を叩いて買ったツメ。
力を込めて振り下ろしたそれが、薄暗い部屋の中に、キラリと照り返し光った。
しかし、濃い紫色の体毛は見た目以上に太く固く、磨き抜かれたはずの刃は、ゴムのような感触に跳ね返された。きつくきつく締めた止め金具が前腕にめり込み、しびれが走る。
「プランさんっ、こいつ・・・」
「馬鹿やろう!よそ見すんな!」
悪猿の想像以上の防御力に怯むレオ。一瞬の弱気から、プランを振り返ったその背後から、風と熱風の悪霊は無造作に豪腕をふるった。背中全体にひろがる灼熱感ーそして次に来るはずの痛みという感覚が脊髄を駆け上がる前に、レオは意識を失い、ゆっくりと倒れた。その後ろには、焦点の定まらない深い目で、こちらを見つめる悪猿が、熱い息を吐き出していた。
「ちっ」
プランはその体躯を震わせると、倒れるレオをかばうように、バズズの胸元に飛び込んだ。そのままショルダータックルのように体をぶつける。深い体毛に体を半ば埋め、その全体重をバズズに押し付けた。低い姿勢をとり、両足に全身全霊の力を込める。首もとにバズズの灼熱の呼吸が降り注ぎ、ちりちりと焼けるようだった。バズズが移動を始めようと押し返してくる。
だが、一歩も、これ以上進ませない。後ろにいる、二人の僧侶のもとには。
「イコプっ、こーてん・・・!」
その時、こーてんは完全に固まっていた。頭の中で何度もシュミレートしていた開幕。戦闘が始まる前に思い描いていた、スキルの構成。祈りから続き、ズッシード、スクルト、フバーハ、による強化。何度もイメージしてきたはずだった。
しかし、開幕直後のツインクローで、死者が出るなんて予想だにしていなかった。まさか、そんな一撃で。
「開幕が、一番大事。開幕が乗り切れれば、大丈夫だから」
事前にイコプさんが言っていた言葉が思い出された。その、大事な開幕で。この場合、俺はズッシードをすればいいのか?それとも、ザオ係の俺が蘇生に走るのか?でも、プランさんまで死んでしまったら、もう壊滅じゃー。頭の中に、数多の選択肢と、寸後に待ち構えている最悪の場面が一瞬にして爆発し、こーてんは固まった。手が震えて、動かない。準備してきたのに。今日のために、一生懸命、みんなで。狭まる視界の中で、獰猛な鼻息を荒げる、バズズと目が合った。殺意を混めた目線が、一直線に自分を貫いていた。駄目だ、殺される。勝てないー
「ザオいくよ」
ガラスを打ち破るように、声が聞こえた。
そしてスタスタと青い衣を翻し、イコプは走っていった。腐臭荒げる悪猿のもとに、さも造作も無いように近づいていく。それはまるで近所に買い物にでも行くかのように。
そんな無防備に・・・いや・・・でも・・・?
こーてんは改めてバズズを見た。殺気迸るその視線は、先ほどから明らかにこちらを見ている。目があう。バズズはつまりー俺を狙っている。落ち着いて見ると、バズズはじりじりと此方に進んできていた。そうか、今バズズのターゲットは俺なんだ、しかし、咆哮を上げるプランがそれを妨害するように、押し返してくれている。イコプさんがあんなにも無造作に進んだのも、それだから。イコプさんは胸の前で指印を切ると、レオさんの周りに暖かい青い光を呼び寄せていた。そしてこっちをちらりと見る。その目は、何かを楽しんでいるかのように、優しかった。
そうだ、大丈夫だ。
俺には頼れる仲間がいる。そして今、俺がやることは。
こーてんは杖を構えた。手はもう震えていなかった。
ズッシードが発動し、体に重量を得たプランは更に体を深く落とすと、バズズをじわじわと押し戻しはじめた。イコプはレオの蘇生を終えると、速やかに後方に下がる。こーてんは既にスクルトを終え、フバーハを唱え始めていた。いくで、こーてんさん。頼れる僧侶を横目に、イコプは自身も聖なる祈りを唱え始め、バズズが次に狙うターゲットへの攻撃に備えた。蘇生されたばかりのレオは、しかし1つの動揺も見せることなく、すぐさまプランの横につく。二人の冥獣のツメがバズズの深い毛の合間から、少しずつその肉に傷をつけ始めた。
そこから先は持久戦だった。
悪霊たる魔力と、圧倒的な攻撃力が、壁のように4人を押し続けた。
しかし、崩れ落ちそうになるたびに、奇跡のような反撃が4人を後押しした。バズズの高速の連続攻撃の合間に入りこむ回復魔法。全滅間際に発動する武闘家の一喝。しかし、奇跡はあくまで努力の元に降り注ぐ。耐性を揃えたことによる、ザラキーマのボーナスターン。集中を切らすことなく避け続けるバギムーチョ、イオグランデ。その1つ1つ、そしてその全てが、4人を支えていた。
「プランさんがタゲって連発してた」
ボスに入る部屋の前、半分冗談めかすように笑っていたレオは、しかし今誰よりもその言葉を意識していた。倒れ、そして起き上がり、ツメをふるう。極度の集中の中、裏腹にレオは思い出していた。こーてん君に初めて会ったときのことを。
「初めてのコインボスだから、みんなでやってみたいんだ」
「友達と一緒にやるドラクエって、楽しいね」
子供のように微笑む彼。私より何倍もでかい体をして、子供っぽいこと言うんだからなんて、あのときは思ったけれど。でも不思議と居心地がよかったんだ。そんなこーてん君と、今戦ってる。こんな強いボスを倒すために、一緒に。
倒れた私の元に、とても真剣な顔で、息急き走ってきて蘇生してくれるこーてん君と目が合うと、私は少し笑ってしまった。そして再び拳に力を込めた。
こーてん君に勝利を。そして私自身にも、勝利を。
ドラクエを始めて、初めてこんなに頑張って準備したボス戦だもの。この私が頑張ったんだ、その努力は報われなきゃ、ね。
強く床を蹴ると、今や赤い文字となったバズズに、私はありったけのタイガークローをぶち込んでやった。
そして、バズズは、倒れた。
苦悶とともに、そして解き放たれる喜びと共に。
轟音と、圧倒的な量の光の奔流が、薄暗い部屋を照らした後、
4人は静まりかえった部屋の中に、立ちすくんでいた。
「うおおおおおおおお!!」
叫ぶプラン。やったね、と微笑むレオ、そしてイコプ。
こーてんは信じられない、といった面持ちで、まだ杖を握りしめていた。
プランはこーてんの肩をドンと叩くと、部屋の奥にいつのまにか鎮座している、赤い宝箱を見やった。
「あけてくれ、こーてん君」
いいの?という表情を浮かべるこーてんに、3人はうんうんと頷いた。
ゆっくりと宝箱に近づくこーてん。
宝箱が、開いた。
こーてん君は動かなかった。
そして何も言わなかった。
ただ宝箱を開いたままの姿勢で、固まっていた。
せ、聖水がよほどショックだったかな。
心配になって宝箱をあける、残りの3人。
結果じゃない。
指輪よりも、大切な思い出を手に入れたから。
でもやっぱり、嬉しかった。
こーてん君とレオの指に、キラリと嬉しそうに光るソーサリーリングが、思い出を形に残してくれたみたいだった。
おまけ
その後連戦でアトラスも行きましょうとなりまして
次の戦いに備えて身支度する二人
イコプ「パフパフッwおけしょうww」
プラン「ちゃぷちゃぷwwちゃぷちゃぷww」
レオ「はよ」
イコプ「ぶーふぁっふぁ仏陀ww仏陀っっw」
プラン「じーざすwwwきりすとwww」
レオ「はよ」
そしたらまさかのトルネコですよ。
こーてん君のリアル僧侶ラック半端ないマジで半端ない。
レオ「デブはよ」
プラン「えっデブって俺のこと?怒った」
プランがふてくされたので記念写真には入りませんでした。
プラン「やっぱいれてよぉ」
寂しかったようです
そしてアトラスも撃破。
最後に、みんなで海に向かってはしりました。
うえーい!!
水着水着ーうえーい!!
わっしょーい!入れねー!!!まあいいよねー!おつかれさーん!!!!
おまけ2
思い出がMP1に変わった瞬間
(2013/1/31)
さて今日も食後の強烈な睡魔に負けて一眠りしてからログイン。
一度寝たら二度と帰らない「帰らずのイコプ」として名を馳せてきている私ですが、あくまでビールを飲んだときだけのことであって全力を尽くせば昼寝から生還してくることもあるんです。これが鉄の意思ってやつです。
今日は竜のおまもりを取りにいきたくなりました。
必須アイテムと名高いアレですがファンキードラゴン強すぎるし落とさないしでお困りのプレイヤーが多いわけです。
以前38歳の盗賊イコプもサポを引き連れて向かったことがあるのですがドラゴンに会う前にアゴがすごい人に撲殺されましてなんか精神的にも肉体的にも辛い思いをした記憶があります。とても一人では無理です。
こんな時はチームに声をかけましょう。イコプさんはチームのリーダーをしている上にその圧倒的な人望からひとたび声をかければチームのメンバーはもう「俺がいきたい私がいきたい」の大騒ぎです。
<やはりイコプさんと行きたい人はとても多い様子>
後々こたつさんが力のなんちゃらがどうとか言っていましたが、ちょっとよくわからなかったのでそれはそっとしておきました。
何人もの希望者から断腸の思いで選び抜かれた3人を選出。
さぁ、さっそくピィピの宿に集まりましょう。
と思ったのですが既にみんなてんでばらばら現地に走り始めてました。
ねえねえこういうときってみんなでどっか集まって「よろー」とか言ってから一緒に行くのが普通じゃないかな どうなのこの連帯感
と思ったんですがきっと一刻も早くりゅうおまを取りたいという気持ちがそうさせたのでしょう。ふふ、イコプ嫌いじゃないよ、そういうの。
で、きのこ山についてアゴとドラゴンをポコポコ倒しました。
出ませんでした。
=完=
決してもう2時だから本当もうねむくて途中で書いててどうでもよくなってきたとかではないなんて嘘はつけない正直もう限界ねむいよパトラッシュもうだめだよワオーンクゥンクゥンはっはっおーわしゃわしゃわしゃ喜んでますねー(ムツゴロウ)
(2013/2/11)
夜勤をあけてぐったりして帰ってきた俺。
バザーだけでも見ておくか、とちらりとログインしました。
チーマーたちがポポリアきのこの山に4人います。
盗賊、芸人、魔法使い、僧侶。これ、おまってるなーと思いながら会話。
イコプ「やっほー眠い」
こたつ「イコプ目が覚める方法があるよ」
イコプ「ほう?何やってみるわ」
こたつ「まず何も考えずにレンジャーになる」
・・・
こたつ氏の提案する眠気解消法とは、レンジャーになって応援ボタンを押すということのようです。そんな方法があったなんて!ぜひ試してみたいと思い23歳のレンジャーとなってププリポへ。
もしかしたらついでに自分も狩れるかなーと思いそれなりにサポ強いのを選ぼうかとも思ったんですが、貧困はいよいよ深刻でして20パーセントオフのフレンドから選びました。
やぬみ:武闘家 55
イーリス:武闘家 60
しし:僧侶45
イーリスさんは全裸のオーガでして気づいたらなんか吸い込まれるように雇ってました。ししはおかんです。痴女と母を同時につれて歩く日が来るとは。
到着。
突如現れたセクシーダイナマイツに興味しんしんのにぼしとジュウス。
にぼし氏は写真を撮り始めた。これは商売になる。
イコプ「1枚500ゴールド」
にぼし「2枚ください」
まさかこんなボロイ商売があったなんて。
ミリオン見えた
ミイホン「ふーん・・・」
こたつ「世の中から♂なんてみんな抹殺してしまおう」
早く狩りをはじめましょう ささ ドラコがまっていますよ
皆さん知ってると思いますがこの周辺のアゴデウスという敵は魅了を使ってくる厄介なやつです。
ミイホンとジュウスはアゴの魅了対策にきちんとぐるぐるメガネです。
そんな二人を見てこたつは言います。
こたつ「ジュウスとみいちゃん(ミイホンのこと)の顔見てるとさ」
こたつ「まじめにやってって言いたくなるよねw」
おまえ・・・
そんなこんなで応援開始。
レンジャーの応援は必殺スキルが出やすくなるんですよ。みなさん知ってました?だから盗賊の「おたからハンター」が凄いでてもう龍おまなんて一瞬で出るってな戦法です。すごい攻略情報伝えちゃった気分。
のはずでしたが
全然でない。
さすが一時期は泣く子もだまる竜のおまもりといわれ畏怖されたレアアイテム。
学校でも「あいつ・・竜おま持ってるらしいぜ・・・」
職場でも「山田君。き、君、竜おま持ってるらしいじゃないか」
とそんくらいのレアアイテム。
そう簡単には出てくれません。
大量に手に入るうろこでなんとかテンションをあげるコスポミレイジュ
自分を偽ることが大切です
しかし出ない。
だんだんとチームのムードが下がってくる。
(なんでこんなに出ないの)
(ごきげんな帽子ってほんとごきげんなことですね)
(イーリスたんはぁはぁ)
と画面の奥から声が聞こえてくるよう。
これはいけない。
チームのリーダーたるイコプはみんなの士気をあげる必要がある。
イコプは動いた。
ファンキードラゴに同化し、気を練る。
「竜のおまもりの神様」通称「おま神」となり、竜のおまもりを呼び寄せるのだ。
寝た。
(2013/3/11)
「このチームで、竜おま持っていないのって後だれ?」
「もうみんな持ってるんじゃない?さすがに」
「ううん、まだ持ってない人、いるよ…ほら…」
「俺のことだな」
苦渋の笑みを顔に作ると、俺は意識して笑った。乾いた笑いだ。隣に座るミイホンは敢えて俺の目線を避けるように、テレビの画面に向けてキーボードを打ちこんでいる。
俺はため息をつくと、空っぽになったグレーのガラスのコップに、水を継ぎ足すために立ち上がった。このコップは近所の雑貨屋で二人で買ったものだ。いつからだろう、このコップが1個しか見当たらなくなったのは。きっと、戸棚の奥にひっそりと仕舞われているだけのことだろうけれど。
冷たいコップに生ぬるい水を注ぎ、飲みほす。朝に食べたトマトソースのパスタは少し塩味が強すぎたようだ。喉が渇く。部屋の中には静かにテレレーというあの戦闘シーンの音楽だけが鳴り響いていた。
「竜おまか」
1000時間を超えたプレイヤーのことを、巷ではサウザンドプレイヤーと呼ぶらしい。千という数字には、古来「数多」という意味が含まれる。つまりその数を持って、一つの法(のり)を満足させることが出来うる目安なのだ。ドラゴンクエストに於いてもそれは正しい。1000時間を費やすことで、大抵のコンテンツはこなすことができる。サウザンドプレイヤーなら一通りの経験と実力はあってしかるべきなのだ。
しかし、その字名が今俺に無言の圧力をかけていた。
竜おまが、無い。
敢えて避けてきた道ではなかった。
竜おまというその圧倒的能力の魅力には早期から気づいていたし、必要性も充分に認識してきた。そして、獲得に向け自分ながら何度も挑んできたつもりである。だが、出ない。幾多の竜の死骸に裏には堆くうろこの山が出来ていた。
当初は焦りは不思議と感じなかった。チームできのこ山に何度も上り、何度も失敗してきたことだ。当然、チームのメンバーも竜おまには恵まれなかった。赤信号、みんなでわたればの精神である。「お前も持ってないのかよー」と笑いながら肩を叩き合う友人がいることで俺は安心していた。しかし、それはいつまでも続く状況ではなかった。
ある日、仮眠から覚めた俺にミイホンが言った。その顔は笑みに満ちあふれていた。
「竜おま、でたよ、でたよー!」
パラディンの不思議な踊りをリアルで再現しながら喜びを伝えるミイホン氏。その目にはうっすらと光るものすら見えたかもしれない。
「こたつも、やぬみも取れたんだよ!やったんだよ!」
「お、おう!やったなあ!」
俺も、喜びを分かち合うように笑顔を作る。しかしその顔は何故かこわばったように歪むだけだった。心の奥の冷たいグラスに、生温い水が注がれる。
「あ、もちろん、イコプも、今度取りに行こうね?手伝うんだよ!」
「お、おう頼むよ!」
そういって、そういったきり。
暫くの時が過ぎた。
一通り竜おまを手に入れたメンバー達は、次の冒険に旅立っている。あるものはそのお守りを生かして強ボスに挑んだり、あるものは合成を極めようとしている。そして俺もブログのイベント等に意識を吸い取られてしまっていた。竜おまが無いことを、忘れようとしていたのかもしれない。
しかし、そんな俺を見て、ミイホンはある日焦れたように言った。
「イコプ、竜おま取りにいかなくていいの?」
「ん、お、おお!竜おま…」
「みんなもう持ってるよ?いいの?リーダー、なんだよ」
「り、リーダーだからって、竜おま持ってなくたっていいだろ!!」
つい、声を荒げてしまった。
それは確かに、持っていなくてもいい。しかし持っているべきなのだ。
解っていたが、分かっていなかった。
ミイホンが悲しい目をして、テレビにまた目を向ける。
「昔は、そんなんじゃなかったよイコプは。誰よりも強くて、誰よりもー。ううん、いい。今は、ブログが大事だもんね」
冷たい剣で背筋を貫かれたようだった。違うー、そんなつもりじゃー。
しかし言葉でなかった。空気が液体になったように重い。必死の思いでたどり着いたテレビ画面の前で、俺は時間をかけて少しずつ自分を空から見下ろしてみた。
強いだけじゃ駄目なんだ。
でも、楽しいだけでも、駄目なんだ。
俺は何かを失っていたのかもしれない。それが何かはまだ分からない。分からないけれど、まずは、竜おまを取ろう。そうすることで、その何かを理解することが出来るかもしれない。
幸い、チームにはまだ少数ながら竜おまが無いメンバーもいた。取りに行くことにする。ミイホンはその様子を、ただ黙って見つめていた。
きのこ山につく。
やはり厳しい戦いだった。
幾多の鱗が詰み上がると裏腹に、プレイヤーの心は少しずつ削り取られて行く。精神力を要求される戦いだ。次こそ、次こそと戦う中で、常にあらわれるのは古びた木箱のみ。金色に輝くあのレア箱は幻のように現れない。
「畜生ー」
俺は歯ぎしりをして、机を叩く。ミイホンがびくっと体を震わせた。
「ちょっと、そんなにー」
「出ないんだよ!」
「・・・」
ミイホンは立ち上がると、静かに台所に姿を消した。
何やってんだ、俺。何かを取り戻そうとしてここに来たつもりなのに、取り戻すどころか、見失うことが増えてしまっている。サウザンドプレイヤーが聞いてあきれる。チームリーダーが聞いてあきれる。
俺はテレビ画面を見つめながら、その焦点はそのテレビの裏側1mくらいの所を見ているように、ぼうっと考えていた。潮時、なのかもしれない。1000時間、成し遂げるには充分な時間だし、成し遂げられなかったときの区切りとしても、また充分な時間だろう。俺は、後者だったんだ。
アストルティアでの生活が走馬灯のように浮かんできた。楽しいことばかりだった。こんな形で、俺のドラゴンクエストが終わるなんて思わなかった。チームはどうする。大丈夫、ジュウスがいる、あいつならリーダーを任せられる。みんな、おれがいなくなったってー、
机に一つ、また一つと水滴が落ちた。
悔しい。
まだ、負けたくない。
俺、こんなところで、終わりたく、ない・・・。
カチャン。
そのときだった。
机の上の水滴を隠すように、何かが置かれた。
それはオムライスだった。
湯気のたつチキンライスの上に、半熟のオムレツ。
暖かい匂いがふわりとして、そしてその上には、ケチャップで文字が書かれている。
りゅうオム
「おい、これ・・・」
「へへ、これ、食べれば絶対でるから。ほら、がんばるんだよ!」
ミイホンが照れくさそうに、ニカっと笑った。
ば、ばっかやろう。そんなことで簡単に出るんだとしたら、苦労はしないって・・・でも、いや。出るかもな。案外簡単に出るのかも。このオムライスの上に卵が乗って、ケチャップで文字が書けたみたいに、それはそういうふうに、出るものなのかもしれない。
「出るな、これは」
「うんうん」
何を考えてたんだ俺は。竜おまなんてたかが一つのレアドロップ。サウザンドプレイヤーの俺からしてみれば、単純な一個のコンテンツの一つにしか過ぎない。取ってやるよ。このオムライスをもぐもぐと平らげて、美味い!とお前に伝えるみたいに、「出たぞ!」と伝えてやる。そんな男が、コスポミレイジュのリーダーだって、思いださせてやる!!
俺はコントローラーを握りしめた。不思議なほどそのコントローラーは、軽かった。
ー結論を言おう。
その日は竜おまは出なかった。しかし、出なかったことは大きなことではない。なぜか?
また、取りにいけばいいからだ。
ドラゴンクエストの世界はまだまだ続いて行く。俺もその中で、日々過ごしていこう。
ブログを書き始めたときにつけていたサブタイトルのように。
「やりたいように、やっていこうよ」
続く
おまけ
竜おまが如く3
上の記載はちょこっとだけ誇張した感じになってしまったので、こちらにチャットとかの記載を乗せてもう一回書き直してみます。まあチャットとか乗せたところで別に変わらないですけどー。
さーさー!そんな感じで竜おまを取りたい取りたいいい加減とらないと強ボスとか行きにくいってばよー!たのむってばよー!誰か手伝ってってばよー!
という気持ちで、相変わらず取れていないにぼし、ポローニャと言ってきました!竜おま!
おまる気まんまんのメンバー。
行きましょう。ぴぃぴの石できたよ!
余談ですがドラゴンクエストの漢字変換ってたまに凄いの出ますよね。
さて、これまで何度挑んでも竜おま取れないので我々の心は傷だらけのブロークンハート思春期ばりの状態です。そのため、あらかじめ予防策を取る必要があります。
心の防衛線をはる一番の効果的作戦は、自らを偽ること。
竜おまが欲しいなんて言ってると出なかったときに辛いでしょう?
違うんだよ俺たちは今からうろこを取りにいくんだよ!と自らを偽って行きましょう。
<うろこに精神を集中することで心の防衛線を張るメンバー>
そしてきのこ山へ!
ポローニャがまじゅうの爪を買ったとかでその実力やいかに!32のダメージ!
傷心のポローニャが「魔法使いになってくる」と去ってしまったので、待つメンバー。
こたつさんがにぼしさんのアフロをなじります。
かわいそうなにぼし
そしてポローニャが合流。
メンバーはイコプ僧侶60、こたつ盗賊60、にぼし魔法使い59、ポローニャ魔法使い60
さらにはチムメンバーのキリトがレンジャーで応援係に来てくれます。
必殺でまくりの倒しまくりでもう宝箱でまくりです。これすぐ出るんちゃうの。
ちょりりーん
うろこだ。
うろこすら出なくてゴールドが出たときも
何もでない時も
俺たちは、けして現実を見ない!
けして現実を見ない!!!
途中でキリトがお出かけしてしまったが、レンジャーもみじが何か突然応援にきてくれた。
こたつの応援にきたと。ありがてえ!その瞬間からにぼしのテンションがかなりあがった気がしたぜ!なかみおっさんだけどな!
しかしそれでもあまりにも出ないので、こたつが「神様に祈ってみよう」と提案。
こたつ以外は踊ってました
そして時はたちついにその時が訪れる
うろこがり終了
(2013/3/23)
にぼし「イコプ・・・俺はもうだめだ・・、竜おまを・・・頼む」
ー それは竜のおまもりを巡る物語 ー
ポローニャ「竜おま、欲しかったです、でも、何だか眠くなってしまいましたー」
ー 繰り返す出会いと別れ ー
こたつ「イコプ、今まで、楽しかった・・・」
ー 絶望と希望が交錯する ー
こたつ「イコプ、この、宝箱・・・!!」
ー 大長編4部作 ー
ー ついに感動の最終章 ー
イコプ「いままで言ってなかったけど。実は俺、あと20分の命なんだ」
イコプ「頼む、最後の20分、力を貸してくれ」
ー ラスト20分に、君は奇跡を目撃する ー
竜おまが如く4
ーーーーーーーーーーーーー
竜おま4になりました。そろそろ欲しい。そろそろ欲しいのです。僧侶で酒場に預けてるときに、「おバザックス狩りにいいくらいの僧侶いるじゃない、借りようーっと・・・え?この僧侶竜おま持ってない。ペッこのゴミ野郎が」と知らない間にイコプの尊厳がけがされているのではないかとプライドの権化イコプさんは気がかりではありませんでした。なので取りにいくことにします。にぼしさんが知らないうちに取ってしまっていたので、うちのチームではついに持っていないのが俺とポローニャだけになってしまいました。時は一刻を争う。イコプ「竜おま取りにいこう!」
ポローニャ「行きましょうー」
こたつ「手伝うよー!」
にぼし「え?wイコプたち竜おま持ってないの?ww」
ポローニャ「ああ?」>にぼし
イコプ「ころすぞ」>にぼし
にぼし「手伝います」
ということで仲良く4人で行ってきました!がんばりましょう!One for all ! All for one !
しかしこれでついに4回目のトライ。普段通りに挑んだとしてもまた敗戦の気配が漂います。何か抜本的な変革が必要だ。努力ではどうにもならない壁を超えるとき、それはシステマティックな変革が力になる。ブレイクスルー、発想の転換です。どうしよう。
そうか・・・この手があった!!!
<ブレイクスルー>
我々はとてもレアな人間姿で挑むことになりました。
なんでだろうこのにぼしを見てると凄い悲しい気持ちになる。
きのこ山に到着。
なんでだろうこのにぼしを見てると凄い悲しい気持ちになります。
まずは戦いの前の記念撮影。
なんでだろうかこのにぼしを見てると凄い悲しい気持ちになります
いざ戦闘開始。
こたつが盗んでポローニャが魔法でダメージ。
カリスマ僧侶イコプが回復。にぼしさんはスターなのでラリホーマとかスマイル。
やはりパーティの生命線、僧侶が良いと安心感のあるパーティになります。
危なげなく狩りが進みます。
イコプ「うろこきたぁああああ!!」
ポローニャ「うろこうれしいです」
そしてうろこ量産体制に入る。
こたつ「お風呂行ってきていい?」
にぼし「俺が何となく2アカで操作するわ」
気持ちの入ったプレイ。
完全にパーティは一つになる。
そしてその瞬間、俺の脳裏に在る事実が思い出された。
あれ?そういえばさっきログインするときに、「利用券の購入をしますか?」とか出てたなというか出てた上に「今日の0時でお金が切れます」とか出てたなそういえば。
時計を確認すると、その時23時40分。
あ、後20分しかない。終わった。
パーティに「後20分で課金切れるわー」と伝え、じゃあそれまでやろっかーとのんびり話してました。(ややオープニングとテンションが異なる部分があることをお詫びします)
ちょうどその時、フレンドのもみじがレンジャーで応援に駆けつけてくれました。レンジャーの力で必殺ばんばん!お宝ハンターばんばん!です!ラストスパートいくぞおー!
でも正直もう時間もないし、今日は無理かなーと思ってたら
あひょおー!!!!出たぁ!!!
で、出たぁあああああ!!!!!!あひょおおお!!!!!普通にでたぁあああ!!!
感動のクライマックス
0時まで残り2分。
いやぁぎりぎりでした。
イコプ「じゃあ俺はもうこれでこの世界にいられない・・・みんな、ありがとう」
と感動的な雰囲気で0時に姿を消えるイコプ、姿を消したイコプをいつまでも慈しむコスポの仲間達という感動的な状況を思い描いてましたが、
あれ?0時になっても消えない。普通にやれる。
<消えないことに納得いかないメンバー>
<ずっとログアウトしないことで無料プレイという裏技編み出した>
さて、ということで全4回にわたり戦ってきました竜おまが如くも無事ゲットということでこれで終わりです。いざ振り返ってみると150匹で出たみたいです。あれ以外とこんなもんだったのか、やぬみさんは500匹かかったそうでした。これでバザックス狩りにも連れてってもらえるはずやー!僧侶イコプをぜひお雇いくださぁい!!!
竜おまが如く 完
おまけ
竜おまが如く エピローグ
こたつが合成にいくので、ヴェリの石を作りに行った。
待つメンバー。
にぼし「ハァハァ」
イコプ「次おれ!次おれ!」
ポローニャ「・・・」
こたつ「このエロプクリポ達があ!」
にぼし「違うんだ」
イコプ「石を待つ間の、場をつなぐためにね?仕方なくね?」
そしてヴェリナードへ。
こたつが竜おま合成に挑むようです。
以前のこともありやや高圧的なこたつ。
お、にぼしさんも夫としてガッツリ言ってやりなさい。
・・・
光耐性がアップしたようでこたつさんも満足気でした。
良かった良かった。
しかしなんでだろうこのにぼしを見てると何だか悲しくなります。
その後、竜おま記念に迷宮へ。
盛り上がるPT!!!!
大興奮です!!
そして迷宮に入るなり!!!
盛り下がるPT。
落ち着きも大事ですからね。
せいっせいっ
なんでだろうこのにぼしを見ていると、なんだか嬉しい気持ちになりますね!
にぼしや!にぼしやー!
完
こたつとちからの指輪物語① 「罪と罰」(2013/1/25)
たつと力の指輪を取りに行くことになった。
ただ少し眠たかったので、1時間だけ寝てから行くねと約束した。
そうあれが確か8時頃のことだった」
「起きたら午前2時だった」
こたつと力の指輪物語②「掴め、その震える手を」(2013/1/26)
目覚めた私は、その日の仕事を粛々とこなし、帰途についた。
ドラゴンクエストをやろうと固く心に誓いながら。
「今日こそ、こたつと力の指輪を取りにいくんだー」
果たされなかった約束は宙にぶら下がったまま、行き場なく揺れている。
冷たい風に吹かれて、所在なく、とても儚げに。
それは枯れ木に残る一枚の葉のように弱い。
しかし、在る。
まだ決して消えることなく、息づいているのだ。
私はそれを殆ど強迫的に信じていた。
やむを得なかった。
あの日は確かに、人独りの力ではどうにもすることの出来ない剛たる力によって、私の意識は奪い取られてしまった。
そこに抵抗の余地はなかった。
ーしかし、それは空白の画面上に浮かぶ言い訳にすぎない。
ディスプレイを隔てた遠い所で、こたつは、ずっとー待っていた。
凍えながら?
暗い部屋の中で、一人画面に向き合い、震えていたのかもしれない。
(イコプは来る、きっと私と力の指輪を取りに、戻ってくる)
白い吐息で声にならない声をつぶやきながら、薄い毛布に包まれて、画面の薄明かりに照らされていたのだ。
その光景が目の裏にまざまざと浮かび、私は悔やんだ。
両手をぐっと握りしめる。
「こたつ・・・俺に、俺にもう一度だけチャンスをくれよ。今度こそ、俺、がんばるから。
お前が力の指輪を取って、画面の向こう、潤んだ瞳で、でもにこって笑う。
俺はその笑顔を、取り戻したいんだ」
玄関をあけるとクリームシチューの良い匂いが漂ってきた。
暖かい部屋の湿度が、俺の心を少し慰めた。
「ごはん、出来てるよ」
相方も少し、その笑顔は遠慮がちだった。
うん、わかってるよー。俺は視線でそう返すと、うなずいた。
食事を終えた。
俺は電源のまだ入っていない、黒いテレビ画面を見つめながら言った。
「今日は、力の指輪を取りにいく」
「うん・・・、きっと、こたつ、待ってると思う。
今日はまだ、ログインはしていないみたいだけど」
フレンドのログイン状況を確認できる、3DSの画面を見ながら相方は答えた。
俺はうなずく。
例え抗えない何かがあったとしても、人はそこに抗おうとする。
消して開かない鉄格子を開こうとする囚人も、そこに希望を見いだす。
希望は、力だから。
「やれるだけのことはやっておきたい。夜に備えて、少し仮眠をとるよ」
「・・・わかった」
相方は微笑むと、私の肩をポン、と叩いた。
私は布団に入った。
こたつ・・・待ってろよ
気づくと、朝だった。
「あれ?」
「あれ?あれ?朝だよ?」
「うん絶対おきないと思ってた(もぐもぐ)」
「卵掛けご飯おいしそうだね!」
「まだシチューもあるよ!」
とさわやかな土曜日が今日も始まりましたイコプですこんにちは!
ということで今日も朝も早くから迷宮に行ってきましたー!
こたつと力の指輪物語③ 「完結編」(2013/2/20)
でこぼことした露頭がそびえる。鉱物に占められたやせた土を、強い風が抉るように吹いていた。そこにほのか疎らに見える緑の植物達は、不毛な大地に根を張ることを選んだという強い意思を感じさせる。
ここはエゼソル峡谷。自然の厳しさと、生命力が相見える地。
「取れる・・・かな」
足元に転がる小さな石をじっと見つめながら、聞こえるか聞こえないかの中間くらいの声で、こたつは呟いた。震える語尾が吹きつける風に溶けて消える。それは来る誰かの返答に怯えているかのようだった。俺はすっと息を深く吸い込み、呼吸を止める。そして答えた。
「取れるよ。いや、取る」
「ーうん」
交わる会話と裏腹に、視線は交差し、結ばれなかった。しかしそれは今に限ったことではなく、あの日を境に、今日までずっと続いていることだ。消して溶けあわない二つの気持ち。迷宮に行こう、ボスを倒そうと半ば無理矢理に撹拌させても、残酷なまでに静かに分離していく。冷たい水と、冷えた油のように。
「大丈夫だよ、レアドロだって、あるしね!さ、行こう!」
レイシャは大げさなくらい明るい声で、呟いた。ほら、大丈夫、と笑顔で俺にうなづく。気にかけさせてごめんな、と俺は苦笑で返すと、眼前に広がる大きな池を見つめた。陽光に煌めく反射がまぶしい。
こたつ、池が光って、まぶしいな。
後でそんなたわいもない会話をしよう。俺たちの間に取り戻したいのは、そんな小さな会話なんだ。とてもたわいもない、だけどとてもかけがえの無いことなんだ。
俺はパンパンと頬をうつと、叫んだ。
「行くぞ!ちからの指輪、取る!」
その日、チームにログインしていたのは4人。こたつ、レイシャ、キキ、そして俺だ。エゾセル峡谷でレベルをあげていたレイシャが、俺を誘った。
「一緒にレベルあげ、しない?」
「ん、いいよ、行こうか。またレイシャは変なところでレベルあげてるねw」
「冒険なんだよ。他に誰か来る人いる?」
「エゾセルってどこだっけ?」
僧侶のキキが尋ねた。エゾセルでレベルをあげる人は中々いない。地理的にも大きな町からは比較的遠く、あまり普段はなじみがない場所である。ただ、そこは最近、あるレアアイテムで有名になりつつあった。
「ボストロールがいるところだよ、ほら、ちからの指輪で有名な・・・あ」
禁句、ではない。しかし、暫くぶりに聞いた言葉だった。誰もが意識して避けていたその話題。流れる気まずい、空気。こたつが口を開いた。
「力の、指輪!ね!」
「おうおう力の指輪なー!大事なやつだよなー」
俺はなんと言っていいのか分からず、しかしなんとか絞り出した言葉はまったく内容の無いものだった。キキとレイシャは画面の向こう側で固まっている。静かに動きを止めたチャット欄。手のひらに冷たい汗がにじみ出てきた。
しかしー。これは、最後のチャンスなのかもしれない。俺は思った。こたつと俺の乖離は、「家族のようだね」と揶揄されるほどのコスポミレイジュの中で、冷たい影を落としていた。あの悲劇の日以来、小さな歯車が狂い始めて以来、大きな全体も少しずつきしみ始めていた。完全に見える一枚岩も、強い一点の衝撃には弱い。一つのひび割れが、修復することなく大きくなるのを、もう黙って見ている訳にはいかない。取り戻そう、俺たちの一枚岩を。これが最後のチャンスだ。
そう思う裏腹に、キーボードを打とうとする俺の手は固まっている。俺は同時に理解していた。失敗すればもう後がないことを。もしこれで手に入らなかったら?こたつの心はどうなってしまうのだろう。こたつが俺を思う気持ちは、どうなってしまうのだろう?想像するのも怖かった。活動停止。しかし俺は画面の向こう側でおそらく同じように固まっているこたつのことを考えた。
きっと今、こたつは震えている。そして怯えている。
その時、脳の他の部分がこたつと出会ったときのことを思い出させた。あれはオルフェアで、レベルあげの募集をしていた時のことだ。まだチームを作るお金も無かった。小さなプクリポの武闘家を見かけて、一緒にやりませんか?と尋ねたとき。なんてテンションの高い人がいるんだと思った。それからずっと一緒にいるようになるなんて、そのときは思わなかったけど。
たった6人で始めたチーム。それから殆ど毎日のように、色々なところに行った。キークエストをやったり、かばんを拡げたり。今ではあんな弱く感じるリザードマンも、あの時はどうしても倒せなくて、みんなで考えた末にこたつが外からずっと応援してくれて、やっと倒せたこともあった。あの時は本当に嬉しかったな。
あの頃と、今。
どこか違っている。それはやっぱり、俺とこたつの間に出来てしまった、冷たい溝みたいなものなんだろう。俺は悔しくなった。恥ずかしいことだけど、目に涙がにじんできた。あの頃に、戻りたい。俺たちはこんなんじゃない。友達?違う。俺たちは会ったことも無いけど、家族だったはずなんだ。家族が離れるなんてことが許せるわけ、無いだろう。
「こたつ、ちからの指輪、取りにいこう」
沈黙が流れた。
1秒だったかもしれないし、1分だったかもしれない。
俺は瞬きするのも忘れ、黄色いチームチャットの画面を見つめた。
刹那の永遠だった。
こたつの返事が表示された。
「行きたい」
こたつ。
俺、今度こそがんばるから。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ボストロールは手強い。
痛恨の一撃は、たったの一撃で容易に命を奪う。
メイン僧侶のキキの巧みな回復をもってしても、その連戦はMPを奪う。魔法の小瓶がみるみるうちに減っていった。
「次こそ出るよ!」
「だね!」
キキとレイシャが鼓舞してくれる。「そうだな」「絶対出る!」と繰り返す俺たちも、冷徹に過ぎ去る時間と共にその言葉の真実身が失われていくのに気づいていた。ぬるり、という表現がふさわしいだろう。俺は必死で気づかないようにしていたその感覚が、ぬるりと、脳髄に迫り来たことに怯えていた。馬鹿野郎・・・イコプ、おいイコプ・・・お前、それでいいのか?まだやれるだろう、まだ、倒れる訳にはいかないだろうーしかしー俺はもう充分がんばったんじゃないかーこれだけやったならもうー
睡魔
悪魔の名を関するその表象名詞。
生物が脳という高次機能を持つことの代償に嫁せられた、絶対の制約。
脳幹という生命の中枢に直接叩き込まれる、巨人の一撃。それが眠りという、悪魔。
「イコプ・・・?」
動きを止めた俺に、いぶかしげに表示される問いかけの言葉。
馬鹿な、違う、俺はまだやれる。
「大丈夫、さあ、次に行こう」
「イコプ、無理、しな」
「行けるって言ってるだろ!!・・・ごめん、さあ、行こうあそこにもいる」
「・・・」
テレビのボリュームを最大にする。
あらゆる刺激を総動員する。頬を叩くだけでは手ぬるい。暖房を切る。窓を開けよう。コーヒーを一気のみだ。手ぬるい。上着を脱ごう。いける、まだ行ける。俺は、まだ戦える。
「盗む、さあ、盗むぞ」
「イコプMP!」
「ああ、そうだった小瓶だよな、ん、そう、小さな、小瓶」
限界が近かった。もう駄目かと思った。
しかし、薄れ行く意識の裏側に、張り付いたように見える世界があった。
ー力の指輪をとって、涙をいっぱい貯めて、でもにこって笑う、その笑顔ー
ーその笑顔を、俺は、取り戻したいんだー
ーこたつの、その、笑顔をー
うつつと現実の中で相見える世界で、その笑顔だけが俺を奮い立たせる。
ーその笑顔をー
ーその笑顔をー
ーその、笑顔をー
チリリーン
音がした。
静かに、流れる時。
誰もが目を疑った。そして怯えた。
金色に煌めく宝箱に、近づくことすらできない。メダルだったら。
俺は動くことができなかった。開けられない。これがメダルだったら、もう・・・
固まるレイシャ、キキ、そして俺。しかしそのとき、こたつは静かに宝箱に近づいて行った。
その姿は俺にはスローモーションのように見えた。
宝箱の前で、固まるこたつ。
俺は目を閉じた。
そして、ゆっくりと、目を開ける・・・
・・・
やりやがった・・・
ははっ・・・やりやがった!!!
やりやがったよ俺たち!
涙で画面が見えない。
こたつに駆け寄る3人。こたつ、お前今どんな顔してんだ。
いやどんな顔でもいい、こたつ!にこって、笑ってくれ!
こたつ「みんな・・・ありがとう!」
=こたつと力の指輪物語=
完
おまけ エピローグ
ヴェリナード
「さー合成しましょうかね」
攻撃力プラス攻撃力プラス神様仏様なむみょーほーれんげきょーぶつぶつ攻撃力プラス・・・
合成おねがいしまーす よーしこたついけー!!
・・・
こたつ・・・さん?
こたつ「守備力+1」
・・・
=本当に完=
たつと力の指輪を取りに行くことになった。
ただ少し眠たかったので、1時間だけ寝てから行くねと約束した。
そうあれが確か8時頃のことだった」
「起きたら午前2時だった」
こたつと力の指輪物語②「掴め、その震える手を」(2013/1/26)
目覚めた私は、その日の仕事を粛々とこなし、帰途についた。
ドラゴンクエストをやろうと固く心に誓いながら。
「今日こそ、こたつと力の指輪を取りにいくんだー」
果たされなかった約束は宙にぶら下がったまま、行き場なく揺れている。
冷たい風に吹かれて、所在なく、とても儚げに。
それは枯れ木に残る一枚の葉のように弱い。
しかし、在る。
まだ決して消えることなく、息づいているのだ。
私はそれを殆ど強迫的に信じていた。
やむを得なかった。
あの日は確かに、人独りの力ではどうにもすることの出来ない剛たる力によって、私の意識は奪い取られてしまった。
そこに抵抗の余地はなかった。
ーしかし、それは空白の画面上に浮かぶ言い訳にすぎない。
ディスプレイを隔てた遠い所で、こたつは、ずっとー待っていた。
凍えながら?
暗い部屋の中で、一人画面に向き合い、震えていたのかもしれない。
(イコプは来る、きっと私と力の指輪を取りに、戻ってくる)
白い吐息で声にならない声をつぶやきながら、薄い毛布に包まれて、画面の薄明かりに照らされていたのだ。
その光景が目の裏にまざまざと浮かび、私は悔やんだ。
両手をぐっと握りしめる。
「こたつ・・・俺に、俺にもう一度だけチャンスをくれよ。今度こそ、俺、がんばるから。
お前が力の指輪を取って、画面の向こう、潤んだ瞳で、でもにこって笑う。
俺はその笑顔を、取り戻したいんだ」
玄関をあけるとクリームシチューの良い匂いが漂ってきた。
暖かい部屋の湿度が、俺の心を少し慰めた。
「ごはん、出来てるよ」
相方も少し、その笑顔は遠慮がちだった。
うん、わかってるよー。俺は視線でそう返すと、うなずいた。
食事を終えた。
俺は電源のまだ入っていない、黒いテレビ画面を見つめながら言った。
「今日は、力の指輪を取りにいく」
「うん・・・、きっと、こたつ、待ってると思う。
今日はまだ、ログインはしていないみたいだけど」
フレンドのログイン状況を確認できる、3DSの画面を見ながら相方は答えた。
俺はうなずく。
例え抗えない何かがあったとしても、人はそこに抗おうとする。
消して開かない鉄格子を開こうとする囚人も、そこに希望を見いだす。
希望は、力だから。
「やれるだけのことはやっておきたい。夜に備えて、少し仮眠をとるよ」
「・・・わかった」
相方は微笑むと、私の肩をポン、と叩いた。
私は布団に入った。
こたつ・・・待ってろよ
気づくと、朝だった。
「あれ?」
「あれ?あれ?朝だよ?」
「うん絶対おきないと思ってた(もぐもぐ)」
「卵掛けご飯おいしそうだね!」
「まだシチューもあるよ!」
とさわやかな土曜日が今日も始まりましたイコプですこんにちは!
ということで今日も朝も早くから迷宮に行ってきましたー!
こたつと力の指輪物語③ 「完結編」(2013/2/20)
でこぼことした露頭がそびえる。鉱物に占められたやせた土を、強い風が抉るように吹いていた。そこにほのか疎らに見える緑の植物達は、不毛な大地に根を張ることを選んだという強い意思を感じさせる。
ここはエゼソル峡谷。自然の厳しさと、生命力が相見える地。
「取れる・・・かな」
足元に転がる小さな石をじっと見つめながら、聞こえるか聞こえないかの中間くらいの声で、こたつは呟いた。震える語尾が吹きつける風に溶けて消える。それは来る誰かの返答に怯えているかのようだった。俺はすっと息を深く吸い込み、呼吸を止める。そして答えた。
「取れるよ。いや、取る」
「ーうん」
交わる会話と裏腹に、視線は交差し、結ばれなかった。しかしそれは今に限ったことではなく、あの日を境に、今日までずっと続いていることだ。消して溶けあわない二つの気持ち。迷宮に行こう、ボスを倒そうと半ば無理矢理に撹拌させても、残酷なまでに静かに分離していく。冷たい水と、冷えた油のように。
「大丈夫だよ、レアドロだって、あるしね!さ、行こう!」
レイシャは大げさなくらい明るい声で、呟いた。ほら、大丈夫、と笑顔で俺にうなづく。気にかけさせてごめんな、と俺は苦笑で返すと、眼前に広がる大きな池を見つめた。陽光に煌めく反射がまぶしい。
こたつ、池が光って、まぶしいな。
後でそんなたわいもない会話をしよう。俺たちの間に取り戻したいのは、そんな小さな会話なんだ。とてもたわいもない、だけどとてもかけがえの無いことなんだ。
俺はパンパンと頬をうつと、叫んだ。
「行くぞ!ちからの指輪、取る!」
その日、チームにログインしていたのは4人。こたつ、レイシャ、キキ、そして俺だ。エゾセル峡谷でレベルをあげていたレイシャが、俺を誘った。
「一緒にレベルあげ、しない?」
「ん、いいよ、行こうか。またレイシャは変なところでレベルあげてるねw」
「冒険なんだよ。他に誰か来る人いる?」
「エゾセルってどこだっけ?」
僧侶のキキが尋ねた。エゾセルでレベルをあげる人は中々いない。地理的にも大きな町からは比較的遠く、あまり普段はなじみがない場所である。ただ、そこは最近、あるレアアイテムで有名になりつつあった。
「ボストロールがいるところだよ、ほら、ちからの指輪で有名な・・・あ」
禁句、ではない。しかし、暫くぶりに聞いた言葉だった。誰もが意識して避けていたその話題。流れる気まずい、空気。こたつが口を開いた。
「力の、指輪!ね!」
「おうおう力の指輪なー!大事なやつだよなー」
俺はなんと言っていいのか分からず、しかしなんとか絞り出した言葉はまったく内容の無いものだった。キキとレイシャは画面の向こう側で固まっている。静かに動きを止めたチャット欄。手のひらに冷たい汗がにじみ出てきた。
しかしー。これは、最後のチャンスなのかもしれない。俺は思った。こたつと俺の乖離は、「家族のようだね」と揶揄されるほどのコスポミレイジュの中で、冷たい影を落としていた。あの悲劇の日以来、小さな歯車が狂い始めて以来、大きな全体も少しずつきしみ始めていた。完全に見える一枚岩も、強い一点の衝撃には弱い。一つのひび割れが、修復することなく大きくなるのを、もう黙って見ている訳にはいかない。取り戻そう、俺たちの一枚岩を。これが最後のチャンスだ。
そう思う裏腹に、キーボードを打とうとする俺の手は固まっている。俺は同時に理解していた。失敗すればもう後がないことを。もしこれで手に入らなかったら?こたつの心はどうなってしまうのだろう。こたつが俺を思う気持ちは、どうなってしまうのだろう?想像するのも怖かった。活動停止。しかし俺は画面の向こう側でおそらく同じように固まっているこたつのことを考えた。
きっと今、こたつは震えている。そして怯えている。
その時、脳の他の部分がこたつと出会ったときのことを思い出させた。あれはオルフェアで、レベルあげの募集をしていた時のことだ。まだチームを作るお金も無かった。小さなプクリポの武闘家を見かけて、一緒にやりませんか?と尋ねたとき。なんてテンションの高い人がいるんだと思った。それからずっと一緒にいるようになるなんて、そのときは思わなかったけど。
たった6人で始めたチーム。それから殆ど毎日のように、色々なところに行った。キークエストをやったり、かばんを拡げたり。今ではあんな弱く感じるリザードマンも、あの時はどうしても倒せなくて、みんなで考えた末にこたつが外からずっと応援してくれて、やっと倒せたこともあった。あの時は本当に嬉しかったな。
あの頃と、今。
どこか違っている。それはやっぱり、俺とこたつの間に出来てしまった、冷たい溝みたいなものなんだろう。俺は悔しくなった。恥ずかしいことだけど、目に涙がにじんできた。あの頃に、戻りたい。俺たちはこんなんじゃない。友達?違う。俺たちは会ったことも無いけど、家族だったはずなんだ。家族が離れるなんてことが許せるわけ、無いだろう。
「こたつ、ちからの指輪、取りにいこう」
沈黙が流れた。
1秒だったかもしれないし、1分だったかもしれない。
俺は瞬きするのも忘れ、黄色いチームチャットの画面を見つめた。
刹那の永遠だった。
こたつの返事が表示された。
「行きたい」
こたつ。
俺、今度こそがんばるから。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ボストロールは手強い。
痛恨の一撃は、たったの一撃で容易に命を奪う。
メイン僧侶のキキの巧みな回復をもってしても、その連戦はMPを奪う。魔法の小瓶がみるみるうちに減っていった。
「次こそ出るよ!」
「だね!」
キキとレイシャが鼓舞してくれる。「そうだな」「絶対出る!」と繰り返す俺たちも、冷徹に過ぎ去る時間と共にその言葉の真実身が失われていくのに気づいていた。ぬるり、という表現がふさわしいだろう。俺は必死で気づかないようにしていたその感覚が、ぬるりと、脳髄に迫り来たことに怯えていた。馬鹿野郎・・・イコプ、おいイコプ・・・お前、それでいいのか?まだやれるだろう、まだ、倒れる訳にはいかないだろうーしかしー俺はもう充分がんばったんじゃないかーこれだけやったならもうー
睡魔
悪魔の名を関するその表象名詞。
生物が脳という高次機能を持つことの代償に嫁せられた、絶対の制約。
脳幹という生命の中枢に直接叩き込まれる、巨人の一撃。それが眠りという、悪魔。
「イコプ・・・?」
動きを止めた俺に、いぶかしげに表示される問いかけの言葉。
馬鹿な、違う、俺はまだやれる。
「大丈夫、さあ、次に行こう」
「イコプ、無理、しな」
「行けるって言ってるだろ!!・・・ごめん、さあ、行こうあそこにもいる」
「・・・」
テレビのボリュームを最大にする。
あらゆる刺激を総動員する。頬を叩くだけでは手ぬるい。暖房を切る。窓を開けよう。コーヒーを一気のみだ。手ぬるい。上着を脱ごう。いける、まだ行ける。俺は、まだ戦える。
「盗む、さあ、盗むぞ」
「イコプMP!」
「ああ、そうだった小瓶だよな、ん、そう、小さな、小瓶」
限界が近かった。もう駄目かと思った。
しかし、薄れ行く意識の裏側に、張り付いたように見える世界があった。
ー力の指輪をとって、涙をいっぱい貯めて、でもにこって笑う、その笑顔ー
ーその笑顔を、俺は、取り戻したいんだー
ーこたつの、その、笑顔をー
うつつと現実の中で相見える世界で、その笑顔だけが俺を奮い立たせる。
ーその笑顔をー
ーその笑顔をー
ーその、笑顔をー
チリリーン
音がした。
静かに、流れる時。
誰もが目を疑った。そして怯えた。
金色に煌めく宝箱に、近づくことすらできない。メダルだったら。
俺は動くことができなかった。開けられない。これがメダルだったら、もう・・・
固まるレイシャ、キキ、そして俺。しかしそのとき、こたつは静かに宝箱に近づいて行った。
その姿は俺にはスローモーションのように見えた。
宝箱の前で、固まるこたつ。
俺は目を閉じた。
そして、ゆっくりと、目を開ける・・・
・・・
やりやがった・・・
ははっ・・・やりやがった!!!
やりやがったよ俺たち!
涙で画面が見えない。
こたつに駆け寄る3人。こたつ、お前今どんな顔してんだ。
いやどんな顔でもいい、こたつ!にこって、笑ってくれ!
こたつ「みんな・・・ありがとう!」
=こたつと力の指輪物語=
完
おまけ エピローグ
ヴェリナード
「さー合成しましょうかね」
攻撃力プラス攻撃力プラス神様仏様なむみょーほーれんげきょーぶつぶつ攻撃力プラス・・・
合成おねがいしまーす よーしこたついけー!!
・・・
こたつ・・・さん?
こたつ「守備力+1」
・・・
=本当に完=